P波・S波・M派

Perfumeやその他の音楽なんかを思いつくままに

扉の向こう側

弟のKがおかしくなってしまってからかれこれ40年、当時中学1年で小学校に上がる前から新聞はおろか洋書を読み神童と言われていたのに。
年齢はすでに初老にさしかかり、放っておけば髪やヒゲは伸び放題でまるで仙人、時々散歩に連れ出すが身なりを整えてやっても目は虚ろで白昼夢を見てるかのようにわけの分からない事を喋り続ける。

唯一興味を示しているのが音楽を聴くときだった。
兄のMは自分の興味が湧いたものを片っ端からKに聴かせていた、10代の頃のハードロックやプログレに始まりいわゆるニューミュージックやテクノポップ、ファンク、ボサノバ…。
しかしそれ以外は身体は現実世界にいるものの、頭の中はこの世のモノでは無いあちら側の世界に行ってしまったかのように訳のわからない独り言をつぶやいているだけだった。
そんな毎日が40年も続いていたのだった。

Mは心底困り果てていた、今までは両親が曲がりなりにもKの面倒を見てくれていたが、その両親も今春相次いで他界、自分も50歳を超え仕事を辞めて面倒みるか施設に入れるか、決断を迫られていた。



自分があっちの世界に引き込まれてしまったのは、中1の熱い夏の日、岩手にある父の実家にお墓参りに行ったときだった。墓前に手を合わせめをつむりご先祖様の事や色々考えて上を見上げたら満天の星空、綺麗だなーって思ってずーっと眺めていたら帰れなくなってしまった。
常に寝ているのか起きているのかわからず、漂っている感覚から抜け出せない。一時はあがいてみたがこの世界の中に安住してしまい何年経ったのかわからない、そもそも時間感覚すら失っていた。ただ、兄が部屋に置いていってくれるレコードやCDを聴いている時は覚醒しているような気がするがそれも長続きしない。
おそらく死ぬまでこんな世界の中に浮遊しているんだろう。


Mは決断した、年が明けたら施設に入れよう。
そんな秋の日、ふと立ち寄ったレコード店(彼はいまだにCD店よりレコード店のほうがしっくりくる)
「Perfumeの新譜は今日が発売日か…」
3年位前からアルバムが出ると買っている。女性3人組の不思議なグループ、エフェクトがかかっている独特の歌声、単純なようで複雑なダンス、よくわからないようで説得力のある少ない歌詞。
帰宅してKに渡すと相変わらず虚ろな目のまま受け取って部屋にこもってしまった。


アルバムを通して何回も何回も聴いた、浮遊しているかと思ったら大地にしっかりと足を踏みしめている、それでも気分は次第に高揚してくる不思議な曲の数々、霧の中が少しづつ晴れて行くようだった。遥か彼方にあった一筋の光が近づいて来たようだった。


今年もあと2ヶ月、Mは正月明けにKを施設に入れる手続きをするためにバタバタと準備をしていた。「今日中に行かなくちゃな、先方もそんなに待ってくれないし」

「おはよう、ってもう昼時だけどな」
あいさつするKを見たのは40年ぶりか、しかも瞳には光が宿り髭面ではあったが顔に生気がみてとれた。


「えっ、お前どうしたんだ……」

「うん、……帰ってくることにしたんだよ、……こっちにさ」

「こっちって…………」
戸惑いながらもMは確信した。(施設の契約はご破算だな。)



数週間経ってMはKに尋ねた「なんでこっち側に帰ってくることにしたんだ?」

「ただ、なんとなくだよ、なんとなく…」
Kはにやけながら答えた。

だってね、あの3人が
まだ戻れるよ  キミの腕をボクが引くから  って
何度も何度も、come again  って
言ってくれたからなんてちょっと恥ずかしくて言えなかったから……。




最後まで読んでしまったあなた、ムダな時間をすごしてしまったでしょ。
長駄文失礼しました。m(_ _)m
Dream Land聴いていたらこんな妄想がアタマをよぎってしまいました。(笑)
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[ 2013/11/10 23:47 ] 妄想 | TB(0) | CM(4)
お見事w
最後に外を2人で歩いていたらKの横を3人の少女が笑いながら走り去って行った、
とかなら完全に星新一のショートショートですね(笑)

しかしDream Landでこれを思いつくって凄いですな(;^_^A

[ 2013/11/11 16:14 ] [ 編集 ]
Re: お見事w
めたぼedgeさん

コメントありがとうございます。

> 最後に外を2人で歩いていたらKの横を3人の少女が笑いながら走り去って行った、
> とかなら完全に星新一のショートショートですね(笑)

ほんとうですね、そこまでは思いつきませんでした。なんとか余韻を残せないかで精一杯で(^_^;)

> しかしDream Landでこれを思いつくって凄いですな(;^_^A

この曲を聴いた時に、楽しい夢の国の話には思えなくて「向こう側=狂気の世界」に行ってしまった人を呼び戻そうとしてる、歌に聞こえてしまったんですよね。
人はどんな拍子で狂気に落ちるかわからない、って話を以前聞いていたのでそれもバックボーンにあったと思います。
[ 2013/11/12 00:06 ] [ 編集 ]
そして…
彼はなぜ向こう側に行ったのだろうか?
空を見上げゆったりと軌跡を描く星々…天上の道徳律に思考がリンクしてしまった。
兄が部屋に残した多くのレコード
バッハの旋律やベートーベンの情熱は、自分の思考とリンクした
現実世界の不条理さや計算出来ない出来事にはうんざりだった
新聞を読まなくなって久しい
日付が何年違っていても、その紙に印刷された文字は同じ情報だった
人間は進歩をやめてしまった
彼はそう考えて、外界への扉を閉じることにした
頭のなかで哲学史を何度も繰り返し理解を深める試みをしていた
最近では星の運行も霞んで見えなくなってきた

兄が不思議なCDを手渡してくれた
円が幾重にも重なっている
彼はケースのふたを開けた時に、そのフィルムがパラパラと零れ落ちた
プレイヤーにCDをセットしてPLAYボタンを押した
机の上のフィルムを重ねた
すると…また美しい三人の女性と円が意味を持った

意味のないと思えた世界に、意味を見つけるのではなく…
自分で意味をつくればいいのだ…
例え、それに意味がなくても…
宇宙でたった一つの「自分の意味を作ればいいのだ」

閉じていた扉をひらくことにした

年老いて父親とそっくりになった兄がいた
「おはよう」
彼は、その言葉から始めることにした

[ 2013/11/28 14:18 ] [ 編集 ]
恐れ入谷でございます。
セラミックおじさんさん

コメント、というか本編以上のパラレルストーリーをありがとうございます。
本編記事をあげた本人としてお恥ずかしい限りで、恐れ入谷の鬼子母神状態です。

そして最後のフレーズが余韻を残してイイですね。
> 年老いて父親とそっくりになった兄がいた

もうこりゃかないませんね。
曲解・妄想にさらに精進して頑張ります。(^^;;
[ 2013/11/29 00:57 ] [ 編集 ]
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